グレゴリオ聖歌・全教会の典礼聖歌

2019年8月7日

 千数百年にわたってカトリック教会のなかで保存され、磨き上げられてきたグレゴリオ聖歌は、ことばとリズムとメロディー、ハーモニーのすべてを一体にした最高の宗教音楽と称されています。

 グレゴリオ聖歌の真の価値は、音楽的に美しいこと、人類最大の文化遺産であることではなく、何よりも深い宗教性、霊性に満たされた祈りであることにあります。グレゴリオ聖歌の歌詞の大部分は聖書からとられており、聖書に働く霊感がこの聖歌を活気付けています。聖なる神の賛美のため、美しくも荘厳に信徒の心を高める祈りがグレゴリオ聖歌です。それは音楽会での観賞用音楽ではなく、教会で祈り、歌われるべき典礼聖歌です。

 グレゴリオ聖歌のメロディー、リズムはラテン語の祈りのことばにあわせて作られていますから、それはラテン語でしか歌えません。しかしミサ通常文にでてくる、信徒が共唱する祈り(キリエ、グロリア、クレド、サンクトゥス、パーテル・ノステルなど)は、国語で誰もが知っている基本的な祈りですし、19世紀の典礼運動はラテン語と国語対訳のミサ典書を作ってきましたから、その意味は容易に分かります。世界共通の国際典礼用語たるラテン語でミサが歌われる限り、どの国の出身であってもカトリック信者は外国に行って「異邦人」と感じることはありません。

 因みに、ラテン語の基本的祈りは、日本ではキリシタンの先祖たちが、250年の迫害にも拘わらず、命懸けで守り続けてきた「われらのオラショ(祈り)」です。それゆえラテン語は全世界の「教会一致のしるし」「今日の教会が昨日の教会そして未来の教会と結ばれるための理想的絆」(ヨハネ23世教皇)です。

 第二バチカン公会議もその「典礼憲章」のなかでグレゴリオ聖歌の重要性を次のように説明しています。「会衆とともに挙げられるミサにおいて、国語を使用することも許される(possit)。ただし、キリスト信者がミサ通常文の中で信徒に属する部分をラテン語でいっしょに唱え、まら歌えるように配慮されねばならない」(54条)。「教会はグレゴリオ聖歌をローマ典礼固有のものと認める。それはもろもろの典礼行為において、他の条件が同様なら(宗教性、音楽性などの点で同等と見られる聖歌のなかで)、首位を占めねばならない」(116条)。「小さい教会で使用するため、(グレゴリオ聖歌の)簡単な曲を集めた簡約版の刊行が有益だと思われる」(117条)。

 このようなポケット版グレゴリオ典礼聖歌集『ユビラーテ・デオ』は1974年にローマで刊行され、全世界の司教団に送られました。その序文に次のような説明があります。「教皇パウロ6世は、グレゴリオ聖歌が神の民の祭儀に随伴し、その甘美な音楽によって祭儀を強く支えるように、そして信徒の声がグレゴリオ聖歌でも国語聖歌できこえるようにという望みを表明された。」

 ローマの礼部聖省は1967年の指針「ムジカム・サクラム」で、外国人の多い大都会や外国人観光客の多い場所の教会でグレゴリオ聖歌を維持するように薦めて次のように言っています。「ミサの祭儀に国語が導入された後、地方の司教は、ひとつまたは幾つかのラテン語ミサ、特に歌ミサを幾つかの教会、特に言語を異にする信徒たちがよく集まる大都会の教会で維持しておくことの適宜性を考慮すべきである」。「国語の歌唱とグレゴリオ聖歌との間の健全な均衡を保つ」(全司教宛て礼拝省書簡「ヴィルンターティ・オブセクエンス」(1974年4月14日)必要があります。